薬局で処方箋を出したときに、
「この薬は在庫がありません」
「今日は全部そろわないので、一部だけ先にお渡しします」
「入荷状況を確認しますので、少しお待ちください」
と言われたことがある人もいるかもしれません。
患者さん側からすると、処方箋を持って薬局に行けば、薬はその場ですぐ用意されるものだと思うかもしれません。
しかし実際には、薬局にある薬の種類や数には限りがあります。
普段よく出る薬は多めに置いていても、あまり出ない薬、門前以外の医療機関から急に来た処方、急な日数増加、出荷調整中の薬などでは、在庫が足りないことがあります。
この記事では、薬局で薬がないと言われたとき、薬剤師が何を確認し、どう判断しているのかを整理します。
今回は待ち時間全般の話ではなく、薬の在庫がないときの確認・判断・患者説明に絞って書きます。
在庫不足以外にも、薬局では処方内容の確認、調剤、監査、医師への確認などで時間がかかることがあります。待ち時間全体の理由については、こちらの記事で詳しく書いています。
関連記事:薬局で薬をもらうまでに時間がかかる理由|待ち時間の裏側で薬剤師がしていること
薬局にすべての薬がそろっているわけではない
まず前提として、どの薬局にも、すべての薬が常にそろっているわけではありません。
病院の近くにある薬局では、その病院からよく出る薬を中心に在庫を置きます。
内科の近くなら、高血圧、糖尿病、脂質異常症、風邪、胃薬などの薬が多くなりやすいです。耳鼻科の近くなら、抗アレルギー薬、点鼻薬、抗菌薬、去痰薬などが多くなりやすいです。
一方で、普段あまり来ない医療機関の処方箋が急に来ると、薬局側でも在庫が読みにくくなります。
門前の病院の処方であっても、すべての薬が毎日出るわけではありません。よく出る薬もあれば、月に1回出るかどうかくらいの薬もあります。
そのような薬が急に長期処方になったり、複数人に同時に出たりすると、在庫が足りなくなることがあります。
私自身も在庫管理をしている中で、処方箋を見た時点で「これは足りないかもしれない」と感じることがあります。
よく出る薬であれば、薬局内の在庫感がある程度頭に入っています。一方で、普段出ない薬や出荷調整中の薬が急に出ると、すぐに確認が必要になります。
在庫不足は、単に薬局が準備を怠っているというより、処方内容、処方日数、患者数、流通状況、薬局ごとの採用品目が重なって起こることが多いです。
門前外の処方や急な日数増加では在庫が読みにくい
薬局では、近くの医療機関からよく出る薬を中心に在庫を組みます。
そのため、いつも来る処方であれば、ある程度は予測できます。
「この薬はよく出るから多めに置いておこう」
「この規格は最近よく動くから発注を増やそう」
「この薬は月に数回しか出ないから、少量だけ置いておこう」
このように、薬局ごとの処方傾向に合わせて在庫を管理しています。
しかし、門前外の処方は話が変わります。
普段ほとんど受けていない医療機関の処方箋では、どの薬が出るか予測しにくいです。
特定の専門科でしかあまり使わない薬、別の地域ではよく使われているが自分の薬局ではほとんど出ない薬、採用メーカーが違う薬などが急に来ることがあります。
また、普段よく出る薬でも、急に日数が増えると足りなくなることがあります。
たとえば、いつも14日分で出ていた薬が、今回は56日分になったとします。
1人分だけなら足りても、同じ薬を使う患者さんが他にもいると、薬局全体の在庫が一気に減ります。
薬局では、過去の処方傾向を見ながら発注しています。毎回14日分くらい出る薬なら、それを前提に在庫数を考えます。
ところが、急に長期処方になると、予測していた数を超えることがあります。
患者さんから見ると「いつも飲んでいる薬なのに、なぜ今日はないのか」と感じるかもしれません。
薬局側としては、いつもの処方量なら足りる見込みだったものが、処方日数の増加や複数患者の重なりで不足する、ということがあります。
出荷調整中の薬は特に対応が難しい
在庫不足で特に対応が難しいのが、出荷調整中の薬です。
出荷調整とは、メーカーや流通の事情により、薬の供給量が制限されている状態です。
薬局が注文しても、希望した数が入ってこないことがあります。
通常の在庫不足であれば、卸に注文すれば翌日以降に入ることがあります。系列店や近隣薬局から分けてもらえる場合もあります。
しかし出荷調整中の薬では、卸にも在庫がない、系列店にもない、近隣薬局にも余裕がないということがあります。
さらに、出荷調整中の薬が急に増量されたり、処方日数が長くなったりすると、薬局としてはかなり対応が難しくなります。
今ある分をどう使うか、次回入荷の見込みはあるか、代替できる薬があるか、処方医へ確認が必要かなど、考えることが一気に増えます。
このような場合、薬剤師がすぐに答えを出せないことがあります。
「在庫がありません」で終わらせたいわけではなく、卸や他店舗に確認し、処方医への確認が必要かを考え、患者さんにどの対応が一番現実的かを整理している時間です。
まず薬局内にある薬で対応できるか確認する
処方箋を見て在庫がなさそうだと思ったとき、薬剤師はすぐに「ありません」と判断しているわけではありません。
まずは、薬局内に本当に使える薬がないかを確認します。
処方どおりの薬が定位置にない場合でも、予備在庫や別の保管場所に残っていることがあります。また、薬局のシステム上の在庫も確認しますが、システム上の数だけで判断せず、実際に薬局内にある数も確認します。
そのうえで、同じ成分の別メーカー品、規格違い、剤形違いで対応できるかも確認します。
たとえば、処方されたメーカーの薬はないけれど、同じ成分の別メーカー品なら在庫がある。
処方された規格はないけれど、別の規格なら在庫がある。
錠剤はないけれど、同じ成分の別剤形なら在庫がある。
このような場面があります。
ただし、ここで大事なのは、薬局で対応できる変更と、処方医への確認が必要な変更があるということです。
処方箋には、薬の成分名で書かれている場合もあれば、特定の商品名で書かれている場合もあります。また、「変更しないでください」という指示が入っていることもあります。
そのため、同じ成分の薬が薬局にあったとしても、薬剤師がその場で必ず自由に変更できるとは限りません。
薬剤師は、処方箋の記載内容を確認し、薬局で対応できる範囲なのか、処方医への確認が必要なのかを判断しています。
患者さんからすると、「同じような薬でいいから出してほしい」と思う場面があるかもしれません。
しかし、薬には用量、剤形、効き方、飲み方、患者さんごとの注意点があります。
似た薬であっても、薬局がその場で自由に変更できるとは限りません。
在庫不足のときに薬剤師が時間をかけて確認しているのは、単に薬を探しているだけではなく、安全に、かつルール上問題なく対応できる方法を確認しているためです。
在庫不足がきっかけでも、薬の変更や日数調整などで処方医への確認が必要になることがあります。疑義照会の基本的な流れについては、こちらの記事で詳しく書いています。
関連記事:薬剤師が疑義照会するのはどんな時?医師に確認する理由と実際の流れ
卸・系列店・近隣薬局に確認する
薬局内に在庫がなく、同じ成分での対応も難しい場合、薬剤師は外部から手配できるかを確認します。
まず確認するのは卸です。卸とは、薬局に医薬品を納品する流通業者です。
通常であれば、卸に在庫があれば、当日または翌日以降に薬局へ納品されます。
ただし、薬の種類、時間帯、地域、配送便、出荷状況によって、入荷できるタイミングは変わります。
系列店がある薬局では、他店舗に在庫がないか確認することもあります。同じ会社の別店舗に在庫があれば、店舗間で融通できる場合があります。
また、近隣薬局に確認することもあります。
近くの薬局に在庫があれば、分譲という形で薬を融通してもらえることがあります。分譲とは、薬局同士で医薬品を譲り受ける対応です。
ただし、これも必ずできるわけではありません。
近隣薬局も同じように在庫が少ないことがあります。出荷調整中の薬では、どの薬局も余裕がないことがあります。
患者さんから見ると、薬剤師が電話をしている時間は長く感じるかもしれません。
しかしその間、薬剤師は卸、系列店、近隣薬局に確認し、いつ入るのか、どのくらい確保できるのか、今日渡せるのか、後日になるのかを調べています。
今ある分を先に渡して、不足分を後日渡すことがある
在庫が一部足りない場合、今ある分だけ先に渡し、不足分を後日渡すことがあります。
たとえば、30日分の処方に対して、薬局に10日分だけある場合です。
この場合、まず10日分を先にお渡しし、残り20日分は入荷後にお渡しすることがあります。
この対応は、患者さんが薬を切らさないようにするためのものです。
すぐに全部そろわないからといって、何も渡さずに帰ってもらうと、治療が途切れてしまう可能性があります。
特に継続薬では、まず手元に必要な分を確保することが重要です。
ただし、すべての薬で同じ対応ができるわけではありません。
急いで必要な薬、短期間だけ使う薬、抗菌薬のように開始タイミングが重要な薬、吸入薬や発作時の薬などでは、後日交付では不十分な場合があります。
一方で、継続薬で手持ちが残っている場合や、数日分を先に渡せば入荷までつなげる場合は、分けてお渡しする対応が現実的なことがあります。
このあたりは、薬の種類、症状、残薬、入荷見込み、患者さんの来局しやすさによって判断します。
薬剤師は単に「何日分足りないか」だけではなく、この患者さんが薬を切らさずに使えるかを考えています。
薬が足りないときは、患者さんの手元に何日分残っているかで対応が変わります。薬局で残薬を確認する理由については、こちらの記事で詳しく書いています。
関連記事:薬局で残薬を聞かれる理由|薬が余る原因と伝え方を薬剤師が解説
在庫不足時に患者さんへ説明していること
在庫がないとき、患者さんに伝えるべきことは、単に「ありません」だけでは不十分です。
できるだけ、なぜ不足しているのか、いつ入る見込みなのか、今日どう対応するのかを説明する必要があります。
たとえば、薬局内の在庫が足りないだけで、卸からすぐ入る見込みがある場合は、次のように説明できます。
「申し訳ありません。この薬は薬局内の在庫が不足しています。卸に確認したところ、明日入荷できる見込みです。今日は今ある分を先にお渡しして、残りは入荷後にお渡しする形でよろしいでしょうか。」
出荷調整中で入荷が不安定な場合は、次のような説明になります。
「この薬は現在、流通が不安定で、薬局から注文しても十分な数が入ってきにくい状態です。卸や近隣薬局にも確認して、どの対応ができるか調べます。」
同じ成分の別メーカー品で対応できそうな場合は、次のように説明できます。
「同じ成分の別メーカーの薬で対応できる可能性があります。処方内容と変更できる範囲を確認したうえで、問題なければそちらでご用意します。」
患者さんにとって大事なのは、「薬がない」という事実だけではありません。
今日飲む薬はあるのか。治療は途切れないのか。後日取りに来る必要があるのか。別の薬に変わるのか。いつまで待てばいいのか。
このあたりを整理して伝えることが重要です。
在庫不足時に患者さんが伝えると助かること
薬がないと言われたとき、患者さん側から伝えてもらえると助かる情報があります。
まず、手元に残っている薬の数です。
残薬がまったくないのか、数日分あるのかで対応が変わります。
すぐに必要な場合は、別薬局の案内や処方医への確認を急ぐ必要があります。数日分残っている場合は、入荷予定に合わせて、不足分を後日お渡しできる可能性があります。
次に、これまで飲んでいたメーカーや剤形です。
特に後発品では、同じ成分でもメーカーが変わることがあります。患者さんによっては、見た目や味、飲みやすさが変わると不安になることがあります。
過去に合わなかったメーカーがある場合は、先に伝えてもらえると助かります。
また、後日受け取りができるかどうかも重要です。
仕事や家庭の都合で再来局が難しい場合、薬局側で別の方法を検討することがあります。逆に、近くに住んでいて後日来局しやすい場合は、今ある分だけ先に渡す対応がしやすくなります。
在庫不足時には、次のような情報があると対応を考えやすくなります。
- 手元に残っている薬の日数
- 今日からすぐ必要かどうか
- 以前と同じメーカー希望があるか
- 後日受け取りが可能か
- 他の薬局で受け取ることも検討できるか
在庫不足は薬剤師の確認と説明が大事になる場面
在庫不足は、薬局実務の中でも対応力が出やすい場面だと思います。
処方箋を見て、足りるかどうかを早めに判断する。
薬局内の在庫を確認する。
規格違い、メーカー違いを確認する。
一般名処方か、変更不可かを確認する。
卸や系列店、近隣薬局に連絡する。
必要なら処方医に確認する。
患者さんに現実的な対応を説明する。
この一連の流れを、できるだけ短時間で行う必要があります。
在庫不足そのものを完全になくすことは難しいです。
どれだけ在庫管理をしていても、急な処方日数増加、門前外の処方、出荷調整、メーカー欠品、採用品目の違いは起こります。
ただし、在庫不足が起きたときに、どう確認し、どう説明し、どう患者さんの治療を途切れさせないかは、薬剤師の大事な仕事です。
患者さんにとっては「薬がない」と言われた時点で困る場面ですが、その裏側では、薬剤師が複数の選択肢を確認しています。
まとめ
薬局で薬がないと言われると、不安になったり、困ったりすると思います。
ただ、薬局にすべての薬が常にそろっているわけではありません。
門前外の処方、急な日数増加、あまり出ない薬、出荷調整中の薬などでは、在庫が足りなくなることがあります。
在庫がないとき、薬剤師はまず薬局内の定位置、予備在庫、別の保管場所、システム在庫、実在庫を確認します。
そのうえで、同じ成分の別メーカー品、規格違い、剤形違いで対応できるかを確認し、薬局で対応できる範囲なのか、処方医への確認が必要なのかを判断します。
薬局内で対応できない場合は、卸、系列店、近隣薬局に確認します。
それでもすぐに全量そろわない場合は、今ある分を先に渡して、不足分を後日渡すことがあります。
患者さんにとって大切なのは、薬が切れないようにすることです。
手元に残っている薬の日数、今日から必要かどうか、後日受け取りができるかを伝えてもらえると、薬局側も対応を考えやすくなります。
在庫不足は薬局にとっても難しい場面ですが、薬剤師はただ「ない」と言っているわけではありません。
薬局内、卸、他店舗、処方内容、変更可否、患者さんの残薬状況を確認しながら、できるだけ治療が途切れない方法を探しています。

