市販の風邪薬や咳止めを販売するとき、年齢や購入数、他に使っている薬などを確認する場面があります。
2026年5月1日からは、濫用対策が「指定濫用防止医薬品」という制度として施行され、販売時の確認や情報提供、数量、陳列などのルールが整備されました。
ただし、「対象商品は1人1箱まで」と覚えるだけでは不十分です。
年齢や購入状況を確認し、大容量製品や複数個を希望する場合には、その理由も踏まえて販売数量が適切か判断する必要があります。また、18歳未満と18歳以上では扱いが異なります。
この記事では、2026年10月時点の制度をもとに、指定濫用防止医薬品の対象成分と、薬剤師・登録販売者が販売時に何を確認するのかを整理します。
指定濫用防止医薬品とは
指定濫用防止医薬品は、濫用防止のために厚生労働大臣が指定する医薬品です。
以前も「濫用等のおそれのある医薬品」として販売時の確認が行われていましたが、2025年の薬機法改正によって制度が法制化され、2026年5月1日から現在の仕組みになりました。
背景には、若年者を中心とした一般用医薬品の濫用や、多量・頻回購入への対策があります。
制度の目的は対象となる市販薬を一律に販売しないことではなく、必要な人には適切に販売しながら、不適切な使用を防ぐことです。
現在の対象は8成分
2026年2月13日の厚生労働省告示では、次の8成分が指定されています。
古い資料には6成分と記載されたものもあるため、現在の対象を確認するときは最新の告示を確認する必要があります。
| 成分 | 一定数量の基準 |
|---|---|
| エフェドリン | 5日分 |
| コデイン | 5日分 |
| ジヒドロコデイン | 5日分、かぜ薬は7日分 |
| ジフェンヒドラミン | 5日分、かぜ薬は7日分 |
| デキストロメトルファン | 5日分、かぜ薬は7日分 |
| プソイドエフェドリン | 5日分、かぜ薬・鼻炎用内服薬は7日分 |
| ブロモバレリル尿素 | 5日分、解熱鎮痛薬は7日分 |
| メチルエフェドリン | 5日分、かぜ薬・鼻炎用内服薬は7日分 |
いずれも外用剤は対象外です。また、指定成分を含んでいても、生薬を主たる有効成分とする製剤は指定濫用防止医薬品には含まれません。
ここで注意したいのが、「5日分までなら販売できる」という意味ではないことです。
一定数量は、一包装であって、かつ、用法・用量からみて定められた日数分を超えないものとされています。
全部を「5日分」と覚えるのではなく、かぜ薬、鼻炎用内服薬、解熱鎮痛薬では一部7日分になると押さえておいた方が実務では安全です。
コデインやデキストロメトルファンなど、咳止めとして使われる成分そのものの違いや患者説明については、こちらの記事で整理しています。
関連記事:咳止めは何が違う?メジコン・アスベリン・レスプレン・コデインを薬剤師が整理
販売時に確認すること
指定濫用防止医薬品では、購入数量だけを確認するわけではありません。
販売時の主な確認事項は、次のように整理できます。
| 確認すること | 実務上のポイント |
|---|---|
| 年齢 | 18歳未満かどうかで販売条件が変わる |
| 他の薬剤・医薬品の使用状況 | 処方薬や市販薬との重複などを確認する |
| 氏名 | 18歳未満では確認が必要 |
| 購入状況 | 当該製品や他の指定濫用防止医薬品の購入状況を確認する |
| 購入理由 | 大容量製品・複数個の場合に確認する |
| その他必要な事項 | 適正使用や情報提供に必要な内容を確認する |
法令上、「使用者本人か」という項目が独立して並んでいるわけではありません。
ただ、誰が使用するのかが分からなければ、年齢や併用薬、必要な数量を判断しにくい場合があります。店舗の手順に沿って、適正使用の判断に必要な情報を確認することになります。
また、指定濫用防止医薬品を濫用した場合に健康被害が生じるおそれがあることなどを、書面等を用いて情報提供し、その内容を理解したことや質問の有無も確認します。
指定濫用防止医薬品に限らず、市販薬では処方薬との成分重複や併用状況の確認も重要です。市販薬やサプリまで確認する理由については、こちらの記事で整理しています。
関連記事:薬剤師が市販薬やサプリを確認する理由|飲み合わせだけではない注意点
実際に販売対応をして感じたこと
私の経験では、指定濫用防止医薬品を購入する人の多くは、「今必要だから1個買う」「家に置いておくために1個買う」といった通常の購入でした。
販売時に確認が必要であることを説明すれば、ほとんどの方はそのまま確認に応じてくれます。
ドラッグストアで勤務していたときは、売場で対象商品を見つけて声をかけるというより、レジから呼ばれて対応することが多くありました。
勤務していた店舗では、対象商品をレジで読み取るとアラートが表示され、薬剤師や登録販売者が呼ばれる仕組みでした。制度や店舗のシステムが変わってからは、資格者がレジに呼ばれる機会も増えました。
レジでの対応なので、「急いでいる」「以前はこんなことを聞かれなかった」と言われることもあります。
それでも、制度上必要な確認を省略することはできません。 なぜ確認が必要なのかを説明しながら対応していました。
一方、調剤薬局で市販薬を販売するときは、私の経験ではドラッグストアほど急かされる場面はほとんどありませんでした。
同じ販売ルールでも、店舗の形態や販売する場面によって対応時の雰囲気は違うと感じます。
18歳未満と18歳以上では販売時の対応が違う
この制度で特に押さえておきたいのが、18歳未満と18歳以上の違いです。
18歳未満では大容量製品・複数個を販売できない
18歳未満には、大容量製品や複数個を販売できません。
一方、小容量製品1個まで販売禁止というわけではありません。
小容量製品を販売する場合でも、氏名や年齢などを確認し、対面または制度上認められたオンラインの方法による情報提供が必要になります。
そのため、「未成年だから売れない」ではなく、「18歳未満では販売数量がより厳しく制限されている」と整理した方が正確です。
なお、年齢確認で18歳以上だった場合でも、高校生などについては、制度の趣旨を踏まえて入念に確認することが望ましいとされています。
18歳以上でも複数購入が自由になるわけではない
18歳以上でも、大容量製品や複数個を自由に購入できるわけではありません。
大容量製品や複数個を希望する場合には購入理由を確認し、その理由に対して希望する数量が適切かを薬剤師または登録販売者が判断します。
厚生労働省のQ&Aでは、家庭の常備薬として購入する場合、同じ症状の家族が使用する場合、長期の海外赴任や海外旅行に携行する場合などが、想定される理由として挙げられています。
ただし、これらの理由であれば自動的に複数個を販売できるわけではありません。
購入理由に対して希望数量が適切かを個別に確認する必要があります。
また、同じ指定成分を含む異なる商品を1個ずつ購入する場合も、「複数個」の販売に該当します。
一方、異なる指定成分を含む製品を1個ずつ購入する場合は、法令上の大容量・複数個販売には該当しません。
ただし、濫用防止の観点から製品の組み合わせを踏まえ、必要に応じて購入理由を確認します。成分や薬効の重複、相互作用など適正使用の確認も必要になる場合があります。
商品名や箱数だけではなく、含まれる成分や購入目的まで見ることが重要です。
陳列や店舗の手順も対象になる
指定濫用防止医薬品では、販売時の確認だけでなく、陳列や店舗の手順も制度の対象になっています。
要指導医薬品や第一類医薬品などは、それぞれの区分に応じた陳列ルールに従います。
第二類・第三類医薬品に該当する指定濫用防止医薬品では、原則として指定濫用防止医薬品の陳列区画内に陳列する方法があります。
ただし、鍵をかけた設備など、購入者が直接手に触れられない陳列設備に置く場合は、この区画内でなくても構いません。
もう一つの方法として、情報提供設備から7メートル以内に陳列し、その情報提供設備に薬剤師または登録販売者を継続的に配置する方法も定められています。
空箱や商品カードを売場に置く方法も可能ですが、判断の対象になるのは空箱の場所ではなく、医薬品の実物をどこに陳列しているかです。
実物が購入者の直接手の届かない場所に置かれていれば、この方法での運用が可能です。
また、販売時の確認や情報提供、陳列、頻回購入・多量購入への対応については、店舗で「指定濫用防止医薬品販売等手順書」を整備し、それに沿って対応することが求められています。
制度変更を「レジで質問する項目が増えた」とだけ捉えるのではなく、店舗全体の販売手順が変わったと考えた方が分かりやすいと思います。
販売を断るだけでなく、必要なら支援につなぐ
確認した結果、適正な使用を確保できないと判断すれば、販売しないという判断が必要になる場面もあります。
ただし、指定濫用防止医薬品の制度は、「濫用しそうな人を見つけて販売を断ること」だけを目的にしたものではありません。
厚生労働省の通知では、販売時の対応を通じて支援が必要な購入希望者と接した場合、薬剤師や登録販売者が適切な支援につなぐ「ゲートキーパー」としての役割を果たすことも期待されています。
適正に使用できると判断できれば必要な医薬品を販売し、頻回購入が続いている、適正な使用が難しいなどの場合には、販売数量の調整や受診・相談先への案内を検討します。
購入者を責めるのではなく、確認した内容に応じて販売の可否や数量を判断し、必要であれば支援につなぐという視点が重要です。
まとめ
指定濫用防止医薬品は、単純な「1人1箱」という制度ではありません。
2026年10月時点では8成分が対象となり、一定数量は一包装かつ原則5日分以内、一部の薬効では7日分以内とされています。
販売時には年齢や併用薬、購入状況などを確認し、大容量製品や複数個を希望する場合には購入理由と数量の妥当性も判断します。
18歳未満では大容量製品・複数個を販売できない点にも注意が必要です。
また、販売時の確認だけでなく、陳列や店舗の手順書も制度の対象です。
私の経験では、濫用が疑われるケースへの対応よりも、通常の購入者に制度上必要な確認を行う場面の方が多くありました。
制度上のルールを理解したうえで、なぜ確認が必要なのかを説明しながら対応できるようにしておくことが重要だと思います。
参考資料
厚生労働省「令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)等の一部改正について」
厚生労働省の改正情報ページ
厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第三十六条の十一第一項の規定に基づき厚生労働大臣が指定する医薬品」令和8年2月13日 厚生労働省告示第32号
指定濫用防止医薬品の告示・適用通知
厚生労働省「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則第百五十九条の十八の六第一項の規定に基づき厚生労働大臣が定める数量」令和8年2月13日 厚生労働省告示第33号
一定数量に関する通知
厚生労働省「指定濫用防止医薬品の販売等について」令和7年12月26日 医薬発1226第16号
販売等に関する通知
厚生労働省「指定濫用防止医薬品の販売等に係る質疑応答集(Q&A)について」令和8年1月30日
指定濫用防止医薬品Q&A

