※本記事には広告・アフィリエイトリンクを含みます。
薬剤師として働き始めたころ、患者さんに薬を説明することを難しく感じる場面がありました。
薬の名前や分類、効能効果、用法用量を確認することはできます。添付文書を見れば、薬剤師として確認すべき情報も分かります。
しかし、それをそのまま患者さんに話せば伝わるかというと、そうとは限りません。
薬剤師が正確に理解することと、患者さんが分かる言葉で説明することは別です。
この記事では、調剤薬局で患者さんに薬を説明するときに、専門用語をできるだけ使わず、分かりやすく伝えるための考え方について書いていきます。
薬剤師が分かる言葉と患者さんに伝わる言葉は違う
薬剤師は、薬を理解するために専門用語を使います。
薬理作用、効能効果、用法用量、副作用、禁忌、相互作用などは、薬剤師にとって必要な言葉です。
医療者同士で情報を共有するときには、専門用語を使った方が正確に伝わることもあります。
ただし、患者さんにそのまま伝えても、理解されるとは限りません。
たとえば、「抗アレルギー作用があります」と説明しても、患者さんによっては具体的に何に効くのか分かりにくいことがあります。
その場合は、
「くしゃみや鼻水、かゆみを抑える薬です」
のように、患者さんが自分の症状と結びつけやすい言葉に変える必要があります。
薬剤師向けの正確な理解を、患者さん向けの言葉に変換することが服薬指導では重要です。
患者さんが知りたいのは薬の分類名だけではない
患者さんが薬局で知りたいことは、薬の分類名だけではありません。
多くの場合、知りたいのは次のようなことです。
・何に効く薬なのか
・どう使えばよいのか
・何に気をつければよいのか
・どんな時に相談すればよいのか
たとえば、薬剤師が「これは去痰薬です」と説明しても、患者さんにとっては分かりにくい場合があります。
そのような時は、
「痰を出しやすくする薬です」
と説明した方が伝わりやすくなります。
「炎症を抑える薬です」という表現も、患者さんによっては少し抽象的です。
症状に合わせて、
「腫れや赤みを引かせる薬です」
「のどの炎症を抑える薬です」
「痛みや腫れをやわらげる薬です」
のように言い換えると、患者さんは自分の症状と薬の目的を結びつけやすくなります。
専門用語を完全に使ってはいけないわけではありません。
ただ、最初から専門用語だけで説明するのではなく、まずは患者さんが分かる言葉で伝えることが大切です。
「これは何の薬ですか?」に一言で答えにくい薬もある
患者さんから、
「これは何の薬ですか?」
と聞かれることはよくあります。
痛み止めであれば「痛みや炎症を抑える薬です」、ビタミン剤であれば「不足しやすいビタミンを補う薬です」と比較的説明しやすいことがあります。
一方で、説明に迷いやすい薬もあります。
たとえば、血流や循環に関係する薬、働き方が複雑な薬、漢方薬のように複数の症状に使われることがある薬です。
このような薬は、「これは何に効く薬です」と一言で言い切りにくい場合があります。
血流に関わる薬であれば、患者さんによって、めまい、しびれ、冷え、耳の症状、目の症状など、処方される目的が異なることがあります。
そのため、単に「血流をよくする薬です」と説明するだけでは、患者さんが「自分の何の症状に対して出ている薬なのか」を理解しにくいことがあります。
このような時は、
「今回は、血流を改善して、今ある症状をやわらげる目的で出ていると考えられます」
のように、薬の働きと今回の症状をつなげて説明する必要があります。
薬の分類だけで説明するのではなく、患者さんが受診した理由や訴えている症状と結びつけて話すことが大切です。
薬剤情報提供書の説明と処方目的がずれることもある
薬剤情報提供書は、患者さんへの説明にとても役立ちます。
効能や注意点が患者さん向けの言葉で書かれているため、薬剤師が言葉選びを学ぶ材料にもなります。
私も調剤を始めたころは、薬剤情報提供書を見ながら、
「患者さんにはこういう言い方をすればよいのか」
と学ぶことが多くありました。
ただし、薬剤情報提供書に書かれている説明だけで、すべての処方目的が伝わるとは限りません。
たとえば、ある症状で受診した患者さんに、一見すると別の目的に見える薬が処方されることがあります。
患者さんからすると、
「この症状で受診したのに、なぜこの薬なのか」
「薬剤情報提供書に自分の症状が書かれていない」
「薬が間違っているのではないか」
と感じることがあります。
このような時に、薬剤情報提供書に書いてある内容だけを読むと、患者さんの疑問が残ることがあります。
もちろん、添付文書上の効能効果にない内容を、薬剤師が断定して説明することは避ける必要があります。
しかし、処方の流れや患者さんの症状から考えて、薬がどのような目的で使われているのかを、分かる範囲で補足することは大切です。
たとえば、
「この薬は薬剤情報提供書ではこのように書かれていますが、今回は今の症状に関係する部分を考えて処方されている可能性があります」
のように説明すると、患者さんの不安を減らせることがあります。
薬剤情報提供書は便利ですが、それだけで説明が完結するわけではありません。
薬剤師が、薬の説明と患者さんの症状をつなぐ必要があります。
薬剤師が薬の情報を確認するときは、まず添付文書の基本項目を確認することが大切です。添付文書の見方については、以下の記事でも書いています。
関連記事:添付文書はどこを見る?調剤薬局でまず確認したいポイント
また、処方内容に疑問がある場合は、患者さんへの説明だけで済ませず、処方元へ確認する必要があります。疑義照会の考え方については、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:疑義照会が怖い薬剤師へ|間違い探しではなく処方意図を確認する仕事
漢方薬は説明が一言で済まないことがある
漢方薬も、説明が難しい薬のひとつだと思います。
漢方薬は、ひとつの薬が複数の症状に使われることがあります。
そのため、患者さんに説明するときは、その患者さんの症状に合う部分を中心に話すことが多くなります。
一方で、薬剤情報提供書には複数の効能や症状が書かれていることがあります。
患者さんがそれを見て、
「この症状は出ていないんですけど」
と疑問に思うこともあります。
そのような時は、
「この薬はいくつかの症状に使われることがありますが、今回は今の症状に合わせて出ていると考えられます」
のように説明することがあります。
薬剤情報提供書に書かれているすべての症状が、その患者さんに当てはまるわけではありません。
漢方薬では、薬剤情報提供書の内容と、今回の処方目的を分けて説明することが必要な場面があります。
副作用も患者さんが気づける言葉で伝える
専門用語を避ける必要があるのは、薬の効果だけではありません。
副作用の説明でも同じです。
眠気、ふらつき、下痢、発疹などは、患者さんにも比較的イメージしやすい副作用です。
一方で、専門用語だけでは伝わりにくい副作用もあります。
たとえば、「光線過敏」と言われても、すぐにどのような症状か分かる患者さんは多くないと思います。
その場合は、
「薬を使った部分に日光が当たると、赤くなったり、かぶれたりすることがあります」
のように説明した方が伝わりやすくなります。
「低血糖」も同じです。
低血糖という言葉だけでは、患者さんが自分で気づきにくいことがあります。
そのため、
「ふらつき、冷や汗、手のふるえ、強い空腹感などが出たら相談してください」
のように、実際に起こり得る症状で説明します。
「出血傾向」も、
「血が止まりにくい」
「鼻血が続く」
「歯ぐきから血が出やすい」
「あざが増える」
のように伝えると、患者さんが気づきやすくなります。
副作用名を伝えるだけではなく、患者さんが自分で気づける形に言い換えることが大切です。
副作用は全部ではなく、必要な内容を選んで伝える
副作用は、すべてを細かく説明すればよいわけではありません。
薬には多くの副作用が記載されています。
それをすべて患者さんに説明しようとすると、時間がかかるだけでなく、患者さんが不安になりすぎることがあります。
場合によっては、
「そんなに副作用があるなら飲みたくない」
と思われてしまうこともあります。
もちろん、必要な注意を伝えないのは問題です。
しかし、すべてを同じ重さで話す必要はありません。
服薬指導では、
・起こりやすい副作用
・患者さんが気づきやすい副作用
・重大で早めに相談してほしい副作用
・患者さんの背景から特に注意したい副作用
を中心に説明します。
たとえば、高齢者であれば眠気やふらつき、転倒に注意が必要なことがあります。
車を運転する人であれば、眠気が出る可能性を伝える必要があります。
副作用説明では、
「副作用が出たら全部すぐに中止してください」
という伝え方ではなく、
「気になる症状が出たら、自己判断せず医師や薬剤師に相談してください」
と伝えることも大切です。
患者さんが必要以上に怖がらず、必要な時には相談できるように説明することが重要です。
説明は長ければよいわけではない
患者さんへの説明は、詳しければ詳しいほどよいわけではありません。
説明が長すぎると、患者さんにとって大事な点が分かりにくくなることがあります。
薬剤師側は丁寧に説明しているつもりでも、患者さんは途中から何が重要なのか分からなくなることがあります。
服薬指導では、まず次の内容を優先して伝えるとよいと思います。
・何の薬か
・どう使うか
・特に気をつけること
・困った時にどうすればよいか
最初から作用機序や細かい副作用をすべて話す必要はありません。
まずは患者さんが安全に薬を使えるように、重要な内容を短く伝えることが大切です。
そのうえで、患者さんから質問があれば、必要に応じて説明を足していきます。
説明は長さよりも、患者さんに必要な内容が伝わることが大切です。
患者さんの理解度に合わせて説明の深さを変える
同じ薬でも、患者さんによって説明の仕方は変わります。
薬にあまり詳しくない患者さんには、短く、分かりやすい言葉で説明した方が伝わりやすいことがあります。
一度に多くの情報を伝えると混乱しそうな場合は、まず要点だけを伝えます。
一方で、自分で本やインターネットで調べている患者さんや、薬について詳しく知りたい患者さんもいます。
そのような場合は、患者さんの反応を見ながら、少し踏み込んだ説明をすることもあります。
基本は分かりやすい言葉で説明しますが、相手が理解できそうであれば、多少専門的な言葉を使ってもよいと思います。
専門用語を使うかどうかは、患者さんが理解できるかどうかに合わせて判断します。
ただし、何でも細かく聞かれる場合に、すべてに長く答えようとすると、説明が広がりすぎることもあります。
そのような時は、必要な内容を説明したうえで、
「詳しいことは医師にも確認してみてください」
「気になる症状があれば、また相談してください」
のように、要点に戻すことも必要です。
このあたりの調整は、経験で少しずつ身についていく部分だと思います。
薬剤情報提供書や患者向け資料から言葉を学ぶ
患者さん向けの説明に慣れないうちは、薬剤情報提供書が参考になります。
薬剤情報提供書には、患者さんに伝わりやすい表現で、薬の効能や注意点が書かれています。
また、薬によってはメーカーが患者向けの説明書や指導せんを作っていることがあります。
吸入薬、点鼻薬、外用薬などでは、使い方の説明が必要になるため、患者向け資料が役立つことがあります。
ただし、患者向け資料にすべての情報が載っているわけではありません。
必要に応じて、添付文書やインタビューフォーム、メーカー資料なども確認する必要があります。
薬剤師は正確な情報を確認したうえで、それを患者さんに伝わる言葉に変える必要があります。
そのための材料として、薬剤情報提供書や患者向け資料を活用するとよいと思います。
薬剤師の勉強を始めたばかりのころは、薬の知識だけでなく、患者さんにどう説明するかも悩みやすい部分です。薬剤師の情報収集については、以下の記事でも書いています。
関連記事:薬剤師の勉強は何から始める?現場で困らないための情報収集
他の薬剤師の説明や薬歴から学べることも多い
患者さんへの説明は、資料だけでなく、他の薬剤師から学べることも多いです。
先輩薬剤師がどのように説明しているかを聞くと、
「この言い方なら分かりやすい」
「この順番で話すと患者さんが理解しやすい」
「この表現なら専門用語を使わずに伝えられる」
と気づくことがあります。
薬歴の書き方から学べることもあります。
薬歴には、患者さんに何を確認し、どのように説明したかが記録されています。
他の薬剤師の薬歴を見ることで、説明の要点や記録の仕方を学べることがあります。
そのまま真似するのではなく、自分の説明に取り入れられる部分を少しずつ増やしていくことが大切です。
患者さんの反応、先輩の説明、薬剤情報提供書、薬歴は、言葉選びを学ぶ材料になります。
相談できる環境があると、説明にも慣れやすい
患者さんに分かりやすく薬を説明する力は、経験の中で少しずつ身についていきます。
ただ、その経験を積むうえで、相談できる環境があるかどうかは大きいと思います。
説明に迷った時に先輩薬剤師へ相談できる。
他の薬剤師の服薬指導を聞ける。
薬歴の書き方を見て学べる。
分からないことを確認しやすい雰囲気がある。
こうした環境があると、患者さんへの説明も少しずつ改善しやすくなります。
反対に、常に一人で判断しなければならない職場や、質問しにくい職場では、経験の浅い薬剤師ほど不安を抱えやすいかもしれません。
薬の説明は、知識だけでなく、日々の経験と周囲のサポートで身についていく部分があります。
もし今の職場で相談しにくさを感じているなら、他の薬局の教育体制や人数体制を調べてみるのも一つの方法です。
薬剤師転職サービスでは、求人票だけでは分かりにくい教育体制、薬剤師の人数、管理薬剤師や先輩薬剤師へ相談しやすい環境などを確認できる場合があります。すぐに転職するつもりがなくても、今の職場以外の環境を知ることで、自分に合う働き方を考えるきっかけになります。
専門用語を使わない説明は少しずつ慣れていく
患者さんに薬を説明するのが苦手でも、最初から完璧に話す必要はありません。
大切なのは、薬剤師向けの言葉をそのまま患者さんに話さないことです。
薬剤師は、薬を正確に理解するために専門用語を使います。
しかし、患者さんに説明するときは、
「この薬は何のために出ているのか」
「患者さんは何を知りたいのか」
「どの言葉なら伝わりやすいのか」
を考える必要があります。
薬の分類名や作用機序を知っているだけでは、患者さんに分かりやすく説明できるとは限りません。
患者さんの症状、理解度、不安に合わせて、説明の言葉を変える必要があります。
服薬指導は、知識だけでなく、伝え方も大切です。
専門用語を避け、患者さんに伝わる言葉で説明できるようになると、患者さんの不安を減らし、薬を正しく使ってもらいやすくなります。
最初は難しくても、日々の説明の中で少しずつ慣れていけばよいと思います。

