薬剤師が職場を選ぶとき、処方箋枚数を見る人は多いと思います。
もちろん、処方箋枚数は忙しさを考えるうえで大事な情報です。
処方箋が多ければ、それだけ調剤、監査、服薬指導、薬歴の件数も増えます。
ただ、実際に働いてみると、薬局の忙しさは処方箋枚数だけでは判断できないと感じます。
同じ40枚でも、流れに乗りやすい40枚もあれば、かなり時間がかかる40枚もあります。
その違いには、近くの医療機関の診療科、門前薬局か広域受付か、初回患者の割合、使い方の説明が必要な薬の多さ、在庫のそろいやすさ、疑義照会のしやすさなどが関係します。
この記事では、薬剤師として複数の薬局で働いた経験をもとに、処方箋の偏りや受付形態によって薬剤師の働き方がどう変わるのかを整理します。
薬局の忙しさは処方箋枚数だけではわからない
薬局の忙しさを考えるとき、処方箋枚数はわかりやすい指標です。
処方箋が多ければ、それだけ対応する患者さんも増えます。
そのため、処方箋枚数が多い薬局ほど忙しくなりやすいのは間違いありません。
ただし、処方箋枚数だけでは見えない部分もあります。
たとえば、継続患者が多く、処方内容も安定していて、在庫もそろっている薬局であれば、枚数が多くても流れに乗りやすいことがあります。
一方で、処方箋枚数がそこまで多くなくても、新規患者が多い、使い方の説明が必要な薬が多い、在庫確認が多い、疑義照会に時間がかかるような薬局では、1枚あたりの負担が重くなります。
つまり、職場選びでは「何枚来るか」だけでなく、「どんな処方箋が来るか」も見た方がよいです。
門前薬局では処方内容が偏りやすい
門前薬局では、近くの医療機関の診療科によって処方内容が偏りやすくなります。
内科や呼吸器科の門前であれば、血圧、糖尿病、脂質異常症などの慢性疾患の薬や、喘息、COPDなどに使う吸入薬が多くなりやすいです。
皮膚科や整形外科の門前であれば、外用薬、湿布、痛み止めなどが多くなりやすいです。
耳鼻科の門前であれば、小児処方、抗アレルギー薬、抗菌薬、点鼻薬、点耳薬などが多くなりやすく、花粉症や風邪の時期には季節による忙しさの差も出やすいです。
診療科ごとの詳しい働き方については、以下の記事でも書いています。
関連記事:内科・呼吸器科門前の薬局で働いて感じたこと
関連記事:耳鼻科門前の薬局で働いて感じたこと
ただし、ここで大事なのは「何科だから楽」「何科だから大変」と単純に決めることではありません。
同じ診療科でも、医師によって処方の傾向はかなり違います。
単科の開業医門前では、医師が大きく変わることは少ないため、よく使う薬や処方パターンが固定化されやすいです。慣れてくると、薬の準備や説明の流れを作りやすい面があります。
一方、大きな病院や複数診療科の門前では、同じ診療科でも医師によって使う薬が違うことがあります。医師の異動で処方傾向が変わることもあります。
そのため、職場選びでは「診療科」だけでなく、「その医療機関ではどのような処方が多いのか」まで見た方が現実に近いです。
処方箋1枚に時間がかかるケースがある
薬剤師の仕事では、処方箋1枚にかかる時間がかなり違います。
慣れている薬であっても、新規患者の場合や、その患者さんにとって初めて使う薬の場合は、説明や確認に時間がかかります。
特に時間がかかりやすいのは、使い方の説明が必要な薬です。
外用薬であれば、どこに塗るのか、どの順番で塗るのか、どのくらいの量を塗るのか、1日何回使うのかを確認する必要があります。
処方医から説明を受けている場合でも、患者さんが正しく理解できているとは限りません。
部位によって薬を使い分ける場合や、複数の外用薬を順番に使う場合は、薬局でも確認が必要です。
呼吸器の吸入薬も時間がかかりやすい薬です。
初回では、吸入器の使い方を説明し、場合によってはその場で実際に使ってもらったり、デモ機で動作を確認してもらったりすることがあります。
吸入薬は、正しく吸入できていなければ十分な効果が期待しにくくなります。
そのため、薬の名前や回数だけでなく、実際の手技まで確認する必要があります。
吸入指導を行った後は、医師への報告書を作成することもあります。テンプレートがあれば大きな負担ではないかもしれませんが、それでも投薬後にもう一手間かかります。
注射薬も、初めて使う場合は説明に時間がかかります。
診療科に関係なく、器具を使う薬は、薬の効果だけでなく、保管方法、準備の仕方、使い方、廃棄方法などを確認する必要があります。
内服薬でも、一般的な飲み方から外れる場合は時間がかかります。
たとえば、週1回だけ服用する薬、起床時に服用する薬、日数によって飲む量が変わる薬などでは、患者さんが間違えないように丁寧な説明が必要です。
このような薬は、間違えて使い続けると、十分な効果が出ないだけでなく、副作用につながることもあります。
そのため、薬剤師側が慣れている薬であっても、患者さんが正しく使えるかどうかの確認には時間をかける必要があります。
継続患者でも使い方の確認は必要
継続している薬だからといって、必ず正しく使えているとは限りません。
実際には、体調が安定していて、患者さん本人も問題ないと思っていても、使い方を確認すると正しくなかったということがあります。
薬局側が説明したつもりでも、患者さんが十分に理解できていなかったということもあります。
特に、使い方の手順がある薬や、一般的な飲み方と違う薬では、定期的に確認する意味があります。
毎回すべてを細かく確認する必要はありません。
ただ、初回、薬が変更になったとき、久しぶりに出たとき、効果が不十分なとき、副作用が疑われるときなどは、改めて確認した方がよい場面です。
こうした確認は、患者さんにとっては数分の説明でも、薬局全体の流れには影響します。
処方箋枚数だけを見ると軽く見えても、実際には服薬指導に時間がかかる処方は少なくありません。
患者層によっても負担は変わる
処方内容だけでなく、患者層によっても薬剤師の負担は変わります。
小児では、体重、粉薬の飲ませ方、味、飲めなかったときの対応、保護者の理解度などを確認することがあります。
特に小児では、本人ではなく保護者に説明することが多くなります。
薬を飲むのは子どもですが、実際に管理するのは保護者であることが多いため、保護者が理解できているかも大事です。
高齢者では、併用薬、残薬、飲み間違い、理解度、家族や施設職員との関わりなどを確認する場面があります。
薬の種類が多い場合や、本人だけで薬を管理するのが難しい場合は、単に薬を渡すだけでは済みません。
さらに、このような患者層で確認事項が多い処方が重なると、服薬指導も薬歴も重くなりやすいです。
また、新規患者が多い薬局では、同じ処方箋枚数でも時間がかかります。
病院や薬局ができてからあまり時間が経っていない場合は、まだ「いつもの患者さん」が少なく、新規患者の割合が高くなりやすいです。
新規患者では、併用薬、既往歴、アレルギー歴、副作用歴、薬の理解度などを一から確認する必要があります。
そのため、処方内容が特別に難しくなくても、新規患者が多い時期は、1枚あたりの対応時間が長くなります。
処方箋枚数が少なくても薬歴に時間がかかることがある
薬局の忙しさは、投薬中だけで決まるわけではありません。
処方箋枚数が少なく、待合室が混んでいないように見えても、薬歴に時間がかかることがあります。
初回患者や確認事項が多い処方では、聞き取った内容や説明した内容も多くなります。
その分、薬歴に残す内容も増えます。
投薬そのものは落ち着いていても、あとから薬歴を書く時間がかかり、結果として業務が押すことがあります。
逆に、処方箋枚数が多くても、継続患者が多く、処方内容が安定していて、確認事項が少なければ、流れに乗りやすいこともあります。
このあたりは、求人票の処方箋枚数だけではなかなか見えません。
「忙しいかどうか」を見るときは、枚数だけでなく、薬歴に残る内容の重さも考えた方がよいです。
広域受付型薬局では在庫と確認の負担が増えやすい
門前薬局では、近くの医療機関でよく使われる薬を事前にそろえていることが多いです。
一方、広域受付型の薬局では、さまざまな医療機関の処方箋を受け付けます。
そのため、同じ系統の薬は置いていても、処方箋に記載された薬そのものがないことがあります。
在庫があっても、必要な日数分をそろえられないこともあります。
また、処方箋に変更不可の指示がある場合など、薬局側の判断だけでは別の薬に変更できないこともあります。
最近は、医薬品の供給が不安定になることもあり、以前なら取り寄せれば対応できた薬でも、すぐに確保できない場合があります。
その場合、近隣薬局に在庫を確認したり、処方元に相談したり、患者さんに事情を説明したりする必要があります。
処方箋枚数としては1枚でも、薬をそろえるまでに時間がかかることがあります。
また、土曜午後や日祝に開いている薬局では、普段利用している薬局でもらい忘れた患者さんが、その時だけ来局することもあります。
そのような場合、遠方の病院の処方箋で、普段は置いていない薬が含まれることがあります。
何とか薬を手配して渡せたとしても、次回以降は元の薬局に戻ることが多く、取り寄せた薬がその後使われず、不動在庫になることもあります。
在庫の話は薬剤師の服薬指導とは少し違うように見えますが、実際の薬局業務では働き方に影響します。
薬がそろわなければ、患者さんへの説明、処方元への確認、近隣薬局への連絡、後日の受け渡しなどが発生するためです。
広域受付では疑義照会に時間がかかることもある
広域受付では、疑義照会に時間がかかることもあります。
門前薬局であれば、処方元の医療機関と日頃からやり取りがあり、確認の流れがある程度決まっていることがあります。
一方で、広域受付では、遠方の医療機関の処方箋を受けることがあります。
大きな病院では、疑義照会をFAXで行う運用のところもあり、処方医にすぐ取り次げるとは限りません。
また、患者さんが処方箋を発行されてから時間が経って薬局に持ってくることもあります。
その時点で、処方医が外出していたり、勤務を終えていたりする場合もあります。
非常勤医師の処方では、確認に時間がかかることもあります。
もちろん、多くの場合は医療機関側で連絡方法を確認してくれます。
ただ、門前薬局と比べると、広域受付では確認の流れが一定ではなく、処方箋1枚に予想以上の時間がかかることがあります。
これも、処方箋枚数だけでは見えにくい忙しさの一つです。
診療科だけで働きやすさは決まらない
ここまで、診療科、門前薬局、広域受付による違いを書いてきました。
ただし、診療科だけで働きやすさが決まるわけではありません。
どの診療科でも、薬剤師人数が足りなければ忙しくなります。
投薬を終えた後に薬歴を書こうとしても、次の患者さんが待っていれば、先に次の投薬へ入ることになります。
その状態が続くと、薬歴が後回しになり、残業につながりやすくなります。
反対に、処方内容が重めでも、薬剤師や事務スタッフの人数がそろっていて、役割分担ができていれば、働きやすいこともあります。
つまり、職場選びでは、診療科や処方箋枚数だけで判断しない方がよいです。
診療科、門前薬局か広域受付か、処方箋枚数、患者層、在庫、疑義照会の流れ、人員体制を合わせて見る必要があります。
求人票や職場見学で確認したいポイントについては、こちらの記事でも整理しています。
関連記事:薬剤師の転職で求人票だけではわからないこと|面接・職場見学で見るべきポイント
まとめ:職場選びでは処方箋枚数だけでなく処方内容と受付形態を見る
薬局の忙しさは、処方箋枚数だけでは判断できません。
門前薬局では、近くの医療機関の診療科や医師の処方傾向によって、処方内容が偏りやすくなります。
広域受付型の薬局では、幅広い処方箋に対応する必要があり、在庫確認や疑義照会に時間がかかることがあります。
また、新規患者や確認事項が多い処方が多い場合は、服薬指導や薬歴に時間がかかりやすくなります。
処方箋枚数が少なくても、1枚あたりの確認事項が多ければ、薬剤師の負担は軽くありません。
薬剤師として職場を選ぶときは、処方箋枚数だけでなく、どのような処方箋が来るのか、門前薬局なのか広域受付なのか、患者層や在庫対応はどうかまで見た方がよいです。
診療科は大事な判断材料の一つです。
ただ、それだけで働きやすさは決まりません。
処方箋の中身と受付形態を見ることで、その薬局での働き方をより現実に近く考えやすくなります。

