薬歴は何のために書くのか|薬剤師が記録していること

薬局薬剤師の働き方

薬局で薬を受け取るとき、薬剤師からいくつか質問を受けることがあります。

「前回のお薬で変わりはありませんでしたか」
「副作用のような症状はありませんでしたか」
「飲み忘れはありませんか」
「他に飲み始めた薬はありませんか」

患者さんからすると、毎回同じようなことを聞かれているように感じるかもしれません。

しかし、薬剤師はただ何となく質問しているわけではありません。

薬が正しく使えているか。
副作用やアレルギーが出ていないか。
他の薬との飲み合わせに問題がないか。
次回以降も安全に薬を使える状態か。

そういった内容を確認し、薬歴という記録に残しています。

今回は、薬剤師が書いている「薬歴」が何のためにあるのか、そして実際にどのようなことを記録しているのかについて、薬局で働く薬剤師の立場から書いていきます。

薬歴は「薬を渡した記録」だけではない

薬歴という言葉は、薬剤師や薬局で働く人でなければ、あまり聞き慣れないかもしれません。

簡単に言えば、薬歴とは、薬剤師が患者さんに確認した内容や説明した内容を残す記録です。

ただし、薬歴は単に「この薬を渡しました」と書くだけのものではありません。

薬剤師が何を確認したのか。
患者さんがどのようなことを話したのか。
副作用や飲み忘れはなかったのか。
次回確認した方がよいことはあるのか。

こうした内容を残しておくことで、次回以降の服薬指導につなげることができます。

薬歴に残す内容は、処方箋を確認する段階で気づくことともつながります。薬剤師が処方箋のどこを確認しているのかについては、こちらの記事でもまとめています。
「薬剤師は処方箋のどこを見ている?|薬をそろえる前に確認していること」

薬歴は、過去の対応を残すためだけのものではありません。

次に患者さんが来局したとき、より安全に薬を使ってもらうための記録でもあります。

薬歴には何を記録しているのか

薬剤師が薬歴に記録している内容は、薬そのものの情報だけではありません。

たとえば、前回以前の状態と比べて、薬が正しく服用できているかを確認します。

飲み薬であれば、決められた回数で飲めているか。
吸入薬や点眼薬、外用薬であれば、正しい方法で使用できているか。
飲み忘れや使い忘れが多くないか。
残っている薬がないか。

こうした内容を確認します。

また、アレルギーや副作用の確認も重要です。

薬を飲み始めてから、発疹が出ていないか。
眠気やふらつきが強く出ていないか。
胃腸症状が出ていないか。
以前に合わなかった薬はないか。

このような情報は、次に薬を確認するときにも重要になります。

さらに、新しく飲み始めた薬がないかも確認します。

病院でもらった薬だけでなく、市販薬、健康食品、サプリメントなども含めて、薬の効果や副作用に影響することがあります。

そのため、薬剤師は「他に飲んでいる薬はありませんか」と確認することがあります。

「変わりなし」も大事な記録

薬歴では、何か問題があったときだけ記録するわけではありません。

何も変わりがない場合でも、「変わりがないこと」を記録します。

これは、何も確認していないという意味ではありません。

むしろ逆です。

服薬状況を確認した。
副作用が出ていないことを確認した。
併用薬が増えていないことを確認した。
体調に大きな変化がないことを確認した。

その結果として、「変わりなし」と記録します。

この記録があることで、次に担当する薬剤師も「前回は問題なく服用できていたのだ」と判断しやすくなります。

薬歴は、何か特別な変化があったときだけ書くものではありません。

問題がないことを確認した記録も、次回以降の服薬指導には必要です。

患者さんの発言も薬歴に残す

薬歴には、患者さんの発言の中で、薬に関係する内容も記録します。

たとえば、

「この薬は飲みにくい」
「朝の薬をよく忘れる」
「薬が余っている」
「外用薬をどのくらい塗ればいいか分からない」
「吸入薬がうまく使えているか不安」

このような発言は、次回以降の確認につながります。

前回「飲みにくい」と話していた薬があれば、次回は「その後、飲めていますか」と確認できます。

残薬が多かった人であれば、「今回は余っている薬はありませんか」と確認できます。

吸入薬の使い方に不安があった人であれば、次回来局時に再度使い方を確認することもできます。

薬歴に残しておくことで、毎回その場限りの対応ではなく、前回の内容を踏まえた対応がしやすくなります。

生活背景も薬に関係することがある

薬歴に残す内容は、薬そのものに直接関係することだけではありません。

一見すると薬と関係がなさそうな生活背景でも、服薬に影響することがあります。

たとえば、車の運転をすることが多い人では、眠気やふらつきが出る可能性のある薬に注意が必要です。

食事の時間が不規則な人では、食後に飲む薬のタイミングが合わないことがあります。

1日3食食べていない人では、「毎食後」と書かれている薬をどのように飲むか確認が必要になることがあります。

夜勤が多い人では、一般的な朝・昼・夕・寝る前という服用タイミングが、生活リズムに合わないこともあります。

飲酒量が多い人では、薬によっては眠気が強く出たり、肝臓への負担を考えたりする必要があります。

喫煙本数が多い人では、呼吸器疾患や生活習慣病との関係、禁煙の状況などを確認するきっかけになることもあります。

このように、生活背景は薬の使い方や副作用の確認に関係します。

そのため、薬剤師は患者さんとの会話の中で、薬の服用に影響すると思われる情報があれば、薬歴の中でも目につきやすい場所に記録するようにしています。

薬歴は次回の服薬指導につながる

薬歴がしっかり書かれていると、次回の服薬指導につなげやすくなります。

たとえば、前回の薬歴に「朝の薬を飲み忘れることがある」と書かれていれば、次回はそこから確認できます。

「前回、朝の薬を忘れることがあるとお話しされていましたが、その後はいかがですか」

このように聞くことができます。

患者さんにとっても、前回話した内容を薬剤師が覚えているように感じられます。

もちろん、薬剤師がすべてを記憶しているわけではありません。薬歴に記録があるから、前回の話を踏まえて確認できます。

また、久しぶりに来局した患者さんでも、過去の薬歴が参考になることがあります。

数年以上間が空いていたとしても、過去にどのような薬を使っていたのか、どのような副作用があったのか、どのような生活背景があったのかが記録されていれば、今回の対応に活かせる場合があります。

薬歴は、今だけの記録ではなく、将来の確認にも使われる記録です。

自分以外の薬剤師が見ても分かるように書く

薬局では、毎回同じ薬剤師が同じ患者さんを担当するとは限りません。

複数人の薬剤師が働いている薬局がほとんどです。

新人薬剤師が処方箋・投薬・薬歴でつまずきやすい点については、こちらの記事でも書いています。
「新人薬剤師が調剤薬局でつまずきやすいこと|処方箋・投薬・薬歴で感じた壁」

そのため、薬歴は自分だけが分かればよいものではありません。

自分以外の薬剤師が見ても、すぐに意味が分かるように書く必要があります。

たとえば、自分だけが分かる略語を使いすぎると、他の薬剤師が読んだときに意味が伝わりにくくなります。

また、自分では覚えている内容でも、薬歴に残していなければ、他の薬剤師には分かりません。

「問題なし」と判断した場合でも、何を確認して問題なしだったのかが分かるように書くことが大切です。

副作用がなかったのか。
飲み忘れがなかったのか。
併用薬に変化がなかったのか。
体調変化がなかったのか。

確認した内容が分かるように残しておくことで、次に誰が担当しても対応しやすくなります。

薬歴は、自分のためだけではなく、次に担当する薬剤師への引き継ぎでもあります。

薬歴が不十分だと困ること

薬歴が不十分だと、次回以降の対応で困ることがあります。

たとえば、前回の薬歴に「次回、検査予定」と書いてあるのに、その次の薬歴で検査について何も触れていない場合です。

検査は終わったのか。
結果はどうだったのか。
薬の変更はあったのか。
体調に変化はなかったのか。

こうしたことが分からないと、次に担当する薬剤師が確認し直す必要があります。

また、処方内容に変更があったのに、その変更について何も書かれていない場合も困ります。

薬が増えたのか。
減ったのか。
中止になったのか。
患者さんは変更理由を理解しているのか。
副作用や症状の変化と関係しているのか。

処方内容が変わっているのに、その経過が薬歴に残っていないと、次回以降の確認がしにくくなります。

薬歴で大切なのは、変化があったときに、その経過が追えることです。

何が変わったのか。
なぜ確認が必要なのか。
次回、何を見ればよいのか。

そこが分かる薬歴であれば、次の服薬指導に活かしやすくなります。

保険薬局としての記録でもある

薬歴は、患者さんへの服薬指導に活かすための記録であると同時に、保険薬局としての記録でもあります。

保険調剤では、薬剤師が患者さんの状態を確認し、必要な説明や指導を行ったことを記録として残す必要があります。

そのため、算定や監査の面でも薬歴は重要です。

ただ、薬歴を「監査のために書くもの」とだけ考えてしまうと、本来の意味が見えにくくなります。

もちろん制度上の記録として必要な面はあります。

しかし、現場で働いていると、薬歴はそれ以上に、次回以降の安全な服薬支援につなげるためのものだと感じます。

薬歴は薬剤師の考えと対応を残す記録

薬歴は、ただ文章を埋めるためのものではありません。

薬剤師が何を確認したのか。
患者さんが何を話したのか。
薬を安全に使ううえで、何に注意が必要なのか。
次回、何を確認すべきなのか。

そういった内容を残すための記録です。

薬歴がしっかり書かれていれば、次に担当する薬剤師が患者さんの状況を把握しやすくなります。

前回の話を踏まえて確認できるため、患者さんからも話を聞き取りやすくなります。

逆に、変化があったのに経過が書かれていない薬歴では、次の対応につなげにくくなります。

薬歴は、薬剤師の仕事の中では地味で時間もかかる業務です。

しかし、患者さんに薬を安全に使ってもらうためには欠かせない記録です。

薬歴を書く目的は、単に過去を残すことではありません。

次にその患者さんを担当する薬剤師が、より良い確認と説明をするために書いています。

薬歴は、薬剤師が患者さんに何を確認し、どう考え、次に何をつなげるかを残すための記録です。